東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2550号 判決 1976年2月24日
控訴人
倉林トミ子
右訴訟代理人
保田敏彦
外一名
被控訴人
国立市
右代表者市長
石塚一男
右訴訟代理人
大橋堅固
外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一当裁判所は、被控訴人の控訴人に対する請求は全部正当であつて認容されるべきであり、他方控訴人の被控訴人に対する請求は失当であつて棄却されるべきであると判断するが、その理由は、次に附加するほか、原判決の理由中控訴人と被控訴人間の関係部分と同一であるから、これを引用する。
(一) <省略>
(二) 控訴人は、本件土地所有権を西谷から譲受けたのは離婚に伴う財産分与であると主張するが、<証拠>によれば、控訴人は西谷と昭和四四年四月七日に調停離婚していること、<証拠>によれば昭和三五年一〇月五日当時控訴人は離婚の意思を有していなかつたことが各認められるから、右主張は前提を欠き採用できず、右西谷から控訴人に対する本件土地所有権の移転は、贈与でありその経緯に関する事実については前示認定(原判決引用)のとおりである。なお、この点に関し控訴人は、原審及び当審における各尋問において、本件土地の贈与は実はすでに昭和三五年七月以前(すなわち、被控訴人の西谷に対する土地交換契約上の債権成立以前)に、控訴人所有(名義は西谷所有名義)の府中市本宿割間に在る土地約一反歩を、西谷に乞われて西谷をして他に売却させるかわりに、それと交換に本件土地を控訴人が西谷から譲受けることとなり、その口頭の約束が当時成立していたが、その後その確実性を期するために書面を要求して作成されたのが昭和三五年一〇月五日付の本件贈与に関する「証」と題する書面(乙第二三号証)であるという趣旨の供述をなし、前出乙第二〇号証、第二二号証中にも右趣旨にそう如き記載部分があるが、右は原審における証人西谷学の証言ならびに弁論の全趣旨に照らし、にわかに措信できるものではない。
(三) 控訴人は、昭和三五年一〇月五日当時西谷としては同年八月二六日の交換契約によつて被控訴人から取得した目録(五)ないし(一〇)の土地を所有していたから同人は無資力でなかつたと主張するが、原審における鑑定人宮内裕作成の鑑定書及びその附属書類である土地評価額証明書の記載によれば、昭和三五年六月頃の本件土地及びその周辺地であるところの目録(一)ないし(一〇)の土地は、おしなべて大半が農地で宅地見込地としては熟成度の低い土地であつたものであり、その後も引き続きその固定資産評価の点ですべて差等のないものであることが認められ、加之他に特段の資料のない本件においては、右交換に供された土地は相互にほぼ等価値であつたと推認すべきところ、<証拠>によれば被控訴人から西谷に対し所有権譲渡が約された各土地のうち最も面積の大きい目録(六)の土地は、当時第三者の所有に属し被控訴人はこれを昭和三七年三月一〇日になつて漸く買収し得たものであることが認められるから、西谷は右交換契約によつても昭和三五年一〇月五日当時はいまだ右目録(六)の土地所有権を取得していないから、他に資産のない限り、本件土地交換契約の債務不履行があつた場合の本件土地に代る填補賠償に対しこれを完済する資力のなかつたことは明らかであり、右にのべた他の資産についても、価値あるものが殆どなかつたことは前示認定(原判決引用)のとおりであるうえ、<証拠>によれば西谷は抵当権を設定してある債務のほかにも少くとも三〇万円を超える借財があつたことが認められ、したがつて被控訴人は、本件贈与によつてその債権を害されるものであつたといわなければならない。
(四) 控訴人は、被控訴人の詐害行為取消権は時効によつて消滅したと主張するが、本件土地につき控訴人に対する所有権移転登記がなされたのが昭和四〇年九月一六日であることは当事者間に争いがないところ、本件の如く不動産の二重譲渡により第一の土地譲受人が詐害されるという事案においては、第一の土地譲受人としては第二の土地譲受人が登記を経由するに至るまでは、土地譲渡人に対し移転登記を請求し且つその履行を得ることによつて本来の債権の満足を得べきものであり、またこのような特定物に関する請求権も窮極において損害賠償債権に転化し得るものであるが、その点に着眼しても、第二の譲受人に対する登記が未だなされていない段階では、目的土地は、依然従来の土地所有者である土地譲渡人の一般債権者に対する共同担保から逸出してはいないから、土地の二重譲渡により詐害されるべき第一の土地譲受人が詐害行為取消権を現実に行使することが法制上客観的に要請される時点、つまり詐害行為取消権不行使によりその権利の消滅を来たすべき消滅時効の起算点は、仮に第一の譲受人において二重譲渡の事実のあつたことをすでに知つている場合でも、それは第二の譲受人が登記を得て対抗力を具備した時点に拠るべきであると解するのが相当である。
そして、この理は、本件の如く控訴人が所有権取得登記に先立つて処分禁止の仮処分を得ている場合であつても、かわりはないと言わなければならない。すなわち、<証拠>によれば、控訴人は旧所有者(西谷と小沢乕太)を仮処分債務者として昭和三五年一一月二一日処分禁止の仮処分決定を得、その翌日その執行としてその旨の不動産登記を経由していることが認められるが、<証拠>によれば、控訴人と西谷間には本件土地所有権の帰属をめぐつて昭和三七年来訴訟が係属し、同訴訟において西谷は本件贈与の成立ならびにその効力を争い、同訴訟は控訴審の昭和四〇年四月六日に言渡した判決が確定するに及んで漸く結着をみたものであることが認められる。
しかし、右認定の事実があるからといつて、前叙の時効の起算点に変動はない。
したがつて、控訴人主張の時効の抗弁は、爾余の点について審究するまでもなく、採用することができない。
(五) 控訴人は、本件被控訴人の詐害行為取消権の行使は信義則に反し権利の濫用であると主張するが、本件の全資料、とくに前項認定の事実及び本件土地が国立第三小学校の校庭として現に使用されていることが争いのないことに徴すれば、右控訴人の主張は、到底これを肯認することができない。
二すると、当裁判所の判断と同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴当事者の負担として、主文のとおり判決する。
(豊水道祐 舘忠彦 安井章)